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インタビューシリーズ 第12回
先生に聞く!第12回鳩貝太郎先生に聞く!
鳩貝先生
プロフィール
国立教育政策研究所名誉職員
鳩貝 太郎(はとがい たろう)先生
昭和21年 千葉県印西市に生まれる
昭和44年 東京教育大学農学部を卒業
千葉県立大多喜高校、佐倉東高校、船橋市立船橋高校勤務、千葉県総合教育センター研究指導主事を経て、平成7年4月から国立教育研究所生物教育研究室長に。平成13年1月の省庁再編で文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部に所属し、平成22年3月末に定年退職。
現在、国立教育政策研究所名誉所員、首都大学東京客員教授、全国学校飼育動物研究会会長、日本生物教育学会副会長、国際生物学オリンピック日本委員会(JBO)副運営委員長

農学から生物学へ、生物に囲まれて育った幼少期

―――どんな幼少期を過ごされたのでしょうか?
鳩貝先生:  私は昭和21年に千葉県北部の利根川と印旛沼に近い印旛郡(現在の印西市)で生まれました。田舎の農家の生まれ育ちで、幼い時から豊かな自然の中で植物やいろいろな家畜の面倒を見ながら育ちました。
農家の長男ですから両親も周囲の人も「農家を継ぐ」ということを前提で育ててくれていましたし、自分も素直にそれを受け入れていました。稲作、野菜作り、葉タバコ栽培、豚・牛・鶏・山羊の世話、里山管理などいろいろやりました。
高校受験でたまたま普通科高校に進学することができ、町の皆さんと付き合えるようになったら、彼らは皆「大学に行く」という雰囲気でした。そこで親に相談したところ「百姓やるのに大学に行く必要はない」という言葉が返ってきたのを覚えています。なんとか親を説得し、「農」という言葉がつく大学であればということで、「東京教育大学農学部」へ進学をしました。

生徒の心をワシ掴みにする授業を!

―――先生の高校教諭時代はどのような先生だったのでしょうか?
鳩貝先生:  学生運動真っ只中の昭和44年3月に大学を卒業し、教師でも(デモ・シカ教師)なろうかという軽い気持ちで千葉県立大多喜高校に赴任、生物を担当しました。高校で教鞭を取っていたときは心のどこかでは「自分のやりたいことができなければ教師をやめて、農業をすれば良い」という気持ちがありました。ですから生徒に喜んでもらえる型にはまらない授業をしようと思い、いくつもの研究会などに出かけいろいろな先生方から多くのことを学び、自分のやりたい授業をいろいろと企画し実践しました。
 例えば、生物の進化の授業では、教科書には写真や資料しかない。そこで佐倉東高校の時に生徒に本物を見せたいと、1学年全員を上野の国立科学博物館に連れていくことを職員会議で認めてもらいました。それも現地集合・現地解散です。実際にやってみると生徒はノートやメモを真剣に取り、実物から学ぶ学習効果のある授業が出来たと思っています。今では色々な学校で博物館学習として定着しましたが、私は40年前に実践をしていました。
 市立船橋高校では選択生物の生徒に尾瀬の自然を見せたいということで「夜行日帰りツアー」を企画しました。生徒を1学期の期末テストの最終日の夜に学校に集め、バスに乗り込み明け方に尾瀬につく。尾瀬の素晴らしい自然を昼まで観察し、学校に帰るのはその日の夜というハードスケジュールでしたが同僚と10年間続けました。生徒だけでなく自分自身が楽しかったですよ。帰ってきた生徒のレポートには尾瀬で見た動物や植物の名前がちゃんと出てくる。これは「実感を持つことが出来たからこそ」の感想だと思います。
 「実体験の大切さ」「体験抜きの人間育成はない」という考えは、このような授業を通して生徒の成長を見ることで私自身が実感をしました。

日本の理科教育のために…

―――先生は多方面でご活躍されていますが、印象深いエピソードを教えてください。
鳩貝先生:  私は平成7年から国立教育研究所に勤務し、生物教育研究室長として「生物学から命の大切さ(生命尊重)を教えたい」と調査研究を行いました。その結果、獣医師さんとの連携を重視した全国学校飼育動物研究会を設立し、研究や実践交流を行っています。学校の飼育動物の飼育環境改善や飼育動物を活用した生命尊重の教育プログラムの開発などが大切であると思います。
 また、2009年には日本で初めての「国際生物学オリンピック(IBO)つくば大会」が行われましたが、1995年の第6回タイ・バンコク大会を視察し、2005年の第16回北京大会に我が日本の代表を初めて送ることに関わってきたので感慨はひとしおでした。このつくば大会で日本人として初めて、私の地元の千葉県の高校生が金メダルを獲得してくれたのは本当に嬉しかったです。今年はデンマーク大会に代表を派遣する準備を進めています。
 さらには、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の立ち上げにも携わり、理科教育の充実発展に関与できたことです。それまでの理科教育は、教育レベルの底上げは徐々に成功していましたが、特に秀でた生徒のフォローがなされていなかった。もっともっとサポートし、彼・彼女らの能力を引き出してあげないといけないという気持ちで、SSHやSPPを支援してきました。現在、SSH指定校も200校を超え、各地域で特色ある様々な成果を挙げているのを嬉しく思います。

未来の科学者のために安心できる環境整備を!

―――これからの夢や希望を教えてください。
鳩貝先生:  私は農家の長男として農業を継がなければならないということで夢を持つことはできませんでした。しかし夢を持たなくても現在只今に全力を尽くし地道にコツコツと忍耐強く頑張ることも大切だと思います。「理科的発想」「科学的根拠」を持って判断できる子を育てたい。更には理科好きな優秀な生徒を伸び伸びと育てていける環境を作っていきたいと考えています。
私は科学オリンピック事業やSSHなどで本当に優秀な生徒たちを目の当たりにしてきました。そのような生徒たちが安心して、研究できる環境作りを支援していきたいです。

今の自分に満足しない

―――若い理科の先生にメッセージをお願いします。
鳩貝先生:  チャレンジすること。今の状況が「良し」ではありません。学会などに入会し、研究発表をすること、大学院へ進学することや国内外の科学教育の視察など、日々自分の成長の為に『チャレンジ』をしてほしいと思います。
―――本日は、示唆に富む話をたくさんしていただき、ありがとうございました。


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